2016年度卒業生の石田省三郎さんの写真展がギャラリー・アートグラフで開催されています。ぜひご覧ください。
本年4月にIG Photo Galleryで行った展示の巡回展となります。
(以下、ギャラリーWebサイトより)
石田省三郎は2018年に写真集『Radiation Buscape』を発表し、写真作家としての活動を開始しました。以来、自らが主宰するIG Photo Galleryを中心に、コンスタントに作品を発表しています。
石田の作品には最初の作品である『Radiation Buscape』から一貫して、人間の暮らしを支えるインフラストラクチャーへの関心があります。『Radiation Buscape』は東日本大震災によって帰宅困難区域となった地域を走るバスの車窓から、風景を撮影した作品です。原子力発電所の事故による深刻な影響は、人の住む場所を奪いました。しかしその一方で、社会活動を続けるためにバスは走り続ける。窓外の風景も時が止まったわけではなく、植物が成長し、建物は朽ちていく。私たちの社会のもろさと、それでもなお動き続ける世界のあり方を見つめた作品だと言えるでしょう。
原発が抱える電力と人間というテーマは、2019年に発表された「Crossing Ray」にも引き継がれます。夜の都市の交差点を比較暗合成したこの作品は、繁栄の象徴とも言える都市の光を剥ぎ取り、都市の骨格を浮かび上がらせました。2021年の「Integral」では再び都市と電力の関係を主題とし、ピンホールカメラで氾濫する都市の光を抽象的に表現しました。
今回展示する「Nights,Walking:Chigasaki」は都市中心部を離れ、神奈川県の湘南・茅ヶ崎の夜を撮影したシリーズです。住宅の窓からもれる生活の明かりと路上を照らす街灯によって露光された風景は、私たちが見慣れた普遍的な光景です。
石田はこのシリーズついて「電気の明かりがつくり出す風景をテーマにした作品群の一つ」と位置づけています。都市部を照らす光の多くは商業的な目的のために消費されていますが、住宅地の光は1人ひとりの生活により密着したものだと言えます。石田の視点は都市から郊外へ移動することで、私たちの生活の中で電力が持つ意味をあらためて問いかけていると言えるでしょう。
また、「Nights,Walking:Chigasaki」は別の角度から「読む」ことができます。夜の闇によって情報が間引きされた写真は、建築物や街の造成といったフォルムを強調します。画面から読み取れるのは、この国が戦後、アメリカの郊外文化から受けてきた影響です。
石田はこの作品をつくるにあたり、アメリカの写真家、ロバート・アダムスの『Summer Nights, Walking』を参照しています。アメリカ写真の伝統を担う巨匠の作品を下敷きにすることで、アメリカの住宅文化を採り入れ「日本化」した風景をアイロニカルに表現したと言えるでしょう。
「写真の伝統」という観点で言ええば、今回、石田は中判フィルムカメラを使い、バライタ銀塩プリントによる展示を行います。石田はデビュー作以来、デジタルカメラを使ってきました。前作の「Integral」では中判ピンホールカメラで撮影していますが、フィルムをスキャニングしデジタルプリントとして仕上げるというハイブリッドでした。今回はインプットからアウトプットまですべてを銀塩写真の技法で行っています。「Nights,Walking:Chigasaki」には写真の歴史を引き継ぎつつ、現代の日本を照らし出すという作者に意図が込められているのです。
タカザワケンジ(写真評論家・IG Photo Galleryディレクター)
http://blog.livedoor.jp/shashinkosha/archives/55839555.html
会場:ギャラリー・アートグラフ
東京都千代田区東松下町17 写真弘社 神田店モノクロ館内2F/JR神田駅下車 徒歩5分
開催期間:7月7日(木)〜8月9日(火)
開廊時間:10:00〜17:00
休廊日:日曜日、祝日、隔週土曜日
(7月16日、7月17日、7月18日、7月24日、7月30日、7月31日、8月6日、8月7日)